転調(てんちょう)とは曲の途中で別の調に変わる事で、転調によって曲調に変化を付けられます。先ずは転調で使われる言葉を知り、何処へ転調するのかを頭で考え、次に耳でも転調を聞いてみましょう。転調と似ているようで、意味合いの違う移調(いちょう)についても知っておきましょう。

近親調へ転調(理論編)

ハ長調(主調)
ハ長調(主調)の4小節

主調は基になる調

上記は調号が無いので、先ずはハ長調かイ短調に絞れます。次に音符の始終の音がドである事や、音源の明るさ等からハ長調と考えてください。曲の基になる調を主調(しゅちょう)といい、この4小節のハ長調を主調として、次からの転調を考えていきましょう。

基調

主調は基調(きちょう)とも言われます。

長調 / 短調

転調は自由だが・・・

中央のハ長調を主調として、転調は他の調の長調と短調の何処へでも行けますが、転調し易い調というのがあります。それは隣の調のト長調とヘ長調、平行短調であるイ短調、主音が同じドのハ短調の4種類です。それぞれ、ハ長調の主調に合わせた呼び方があるので、詳しく見ていきましょう。

  • ハ長調(主調)
    ハ長調(主調)の小節
  • ト長調(属調)
    ト長調(属調)の小節

属調は第5音

①のハ長調の第5音はソで、それを主音に長音階を作ると、②のト長調になります。これをハ長調の属調(ぞくちょう)はト長調になる、という言い方をします。

  • ハ長調(主調)
    ハ長調(主調)の小節
  • ヘ長調(下属調)
    ヘ長調(下属調)の小節

下属調は第4音

③のハ長調の第4音はファで、それを主音に長音階を作ると、④のヘ長調になります。これをハ長調の下属調(かぞくちょう)はヘ長調になる、という言い方をします。

  • ハ長調(主調)
    ハ長調(主調)の小節
  • イ短調(平行調)
    イ短調(平行調)の小節

平行調は第6音

⑤のハ長調の第6音はラで、それを主音に短音階を作ると、⑥のイ短調になります。これをハ長調の平行調(へいこうちょう)はイ短調になる、という言い方をします。

  • ハ長調(主調)
    ハ長調(主調)の小節
  • ハ短調(同主調)
    ハ短調(同主調)の小節

同主調は第1音

⑦のハ長調の第1音はドですが、それを主音に短音階を作ると、⑧のハ短調になります。これをハ長調の同主調(どうしゅちょう)はハ短調になる、という言い方をします。

ハ長調と近親調の構成音
ハ長調と近親調の構成音表

近親調は構成音が似ている

属調・下属調・平行調・同主調を近親調(きんしんちょう)と言います。これら近親調へ転調し易いとされるのは、表にも示す通り主調のハ長調と構成音が似ている、という理由があります。

短音階は使い分けられる

平行調は同じ構成音になりますが、これは自然的短音階の場合です。同主調も含め過去に説明した、和声的短音階と旋律的短音階に転調する場合もあり、その時は構成音が違ってきます。

  • ハ長調の近親調(小)
    ハ長調の近親調(小)の図
  • ハ長調の近親調(中)
    ハ長調の近親調(中)の図
  • ハ長調の近親調(大)
    ハ長調の近親調(大)の図

近親調は広がる

大昔のクラシックでは❶の、属調・下属調・平行調・同主調の4種類を近親調としていたようですが、現在に近づくに連れ❷や❸のように、属調の同主調や、下属調の平行調の同主調など、近親調は広がっていったようです。楽典によっても、近親調と説明される範囲は異なっています。

  • イ短調の近親調(小)
    イ短調の近親調(小)の図
  • イ短調の近親調(中)
    イ短調の近親調(中)の図
  • イ短調の近親調(大)
    イ短調の近親調(大)の図

短調が主調の近親調

次はイ短調が主調の時の、近親調も確認しておきましょう。主調が短調の時は属調や下属調も、主調に合わせて短調なったりしますが、基本的な事は主調が長調の時と同じです。

日本式と英語式の五度圏
五度圏の図

五度圏で一目瞭然

楽典には円に調が記された五度圏(ごどけん)という表があります。五度圏には色んな用途がありますが、これを見れば主調から他の調が、どれくらい離れているかを一目で判断できます。ポピュラーミュージックに親しんでいる人は調を英語式にした、右側の五度圏の方が見やすいかと思います。

遠隔調は主調から遠い調

12時のハ長調を主調とするなら、それに近い調を近親調と言いますが、5時~7時くらいの遠い調は遠隔調(えんかくちょう)と言われます。遠隔調に転調する事もあり、近親調よりも曲の雰囲気を大きく変えられるでしょう。

近親調へ転調(実音編)

ハ長調(主調)
ハ長調(主調)の4小節

主調をハ長調とする

近親調を頭で理解できたら、今度は実際に耳でも転調を確認していきましょう。本来なら転調は曲の途中で行われるものですが、ここでは転調ごとに区切って聞いてみます。上記は4小節という簡単なハ長調のフレーズですが、これを主調として近親調へ転調してみましょう。

  • ト長調(属調)
    ト長調(属調)の4小節
  • ヘ長調(下属調)
    ヘ長調(下属調)の4小節

属調と下属調へ転調

①がト長調の属調で、②がヘ長調の下属調への転調です。両方とも主調と同じ長調への転調なので、音の高さは違うものの、大きな違和感は感じられないかと思われます。ここでは両方ともに主調から音を下げた転調ですが、音を上げた転調でも問題ありません。

  • イ短調の自然的短音階(平行調)
    イ短調の自然的短音階(平行調)の4小節
  • イ短調の和声的短音階(平行調)
    イ短調の和声的短音階(平行調)の4小節
  • イ短調の旋律的短音階(平行調)
    イ短調の旋律的短音階(平行調)の4小節

平行調へ転調

③はイ短調の平行調への転調で、大きな変化が聞き取れるかと思います。更に④は和声的短音階で、⑤は旋律的短音階になっており、これでも随分と雰囲気は違ってきます。このように平行短調への転調は、3種類から選ぶ事が出来ます。

イ長調(平行調の同主調)
イ長調(平行調の同主調)の4小節

平行調の同主調へ転調

今度は平行調の同主調という、イ長調への転調です。先程のイ短調からしてみると、長調へ転調しているので、暗い雰囲気から明るい雰囲気へ、変わっているのが聞き取れるかと思います。

  • ハ短調の自然的短音階(同主調)
    ハ短調の自然的短音階(同主調)の4小節
  • ハ短調の和声的短音階(同主調)
    ハ短調の和声的短音階(同主調)の4小節
  • ハ短調の旋律的短音階(同主調)
    ハ短調の旋律的短音階(同主調)の4小節

同主調へ転調

主調のハ長調から同主調への転調はハ短調になるので、これも先程のように、⑥の自然的短音階、⑦の和声的短音階、⑧の旋律的短音階の3種類から選べます。より短調感が出せるというのは、メロディによっても左右されるので、3種類の短音階を聞き比べる事が大事でしょう。

変ホ長調(同主調の平行調)
変ホ長調(同主調の平行調)の4小節

同主調の平行調へ転調

同主調の平行調への転調は、変ホ長調になります。主調のハ長調から見れば同じ長調なので、属調や下属調と同じくして、自然に聞き取れるかもしれません。

移調

カエルの歌(ハ長調)
カエルの歌(ハ長調)の4小節

ハ長調から低く移調する

上記はハ長調のカエルの歌の一部ですが、地声の低い男性に「キーが高いので低くしてください」と頼まれたとします。歌い出しの音がハ長調の主音でもあるドなので、これを基準に考えてみます。

ドから半音7つ低いファ
ドから半音7つ低いファのピアノ図

半音7つ下げる

その男性はファからが歌い易いと言われるので、ドからファまで音を下げてみます。ピアノ図で確認してみると、ドからファまでは半音にして7つ分あります。そして、出来上がった譜面が次の通りです。

カエルの歌(ヘ長調)
カエルの歌(ヘ長調)の4小節

他の音も半音7つ低い

歌い出しの音はドからファになりましたが、他の音も同じように半音7つ分低くなっています。結果的に調号は、♭1つのヘ長調になりました。

ドナドナ(イ短調)
ドナドナ(イ短調)の4小節

イ短調から高く移調する

次はイ短調のドナドナの一部ですが、今度は声の高い女性が「最低音のラをファ#まで上げて」と注文してきました。先程と同じように、先ずはピアノ図で考えてみましょう。

ラから半音9つ高いファ#
ラから半音9つ高いファ♯のピアノ図

半音9つ上げる

ラからファ#までは半音にして、9つ分あります。これを踏まえて出来たのが、次の譜面です。

ドナドナ(嬰へ短調)
ドナドナ(嬰ヘ短調)の4小節

他の音も半音9つ高い

最低音のラがファ#になりましたが、他の音も同じように半音9つ分高くなっています。結果的に調号は、#3つの嬰へ短調になりました。

移調はカラオケでトランスポーズ

カラオケに行かれる方は御存じかと思いますが、キーを1つずつ上下させる機能があります。これが移調と同じ事で、全体的な音程が半音ずつ上下しているわけです。また、音楽作曲アプリ等では移調の事をトランスポーズと言い、自作曲などを簡単に移調できたりもします。

記事終了
このページのまとめ
  • 転調は曲の途中で別の長調や短調になる。
  • 短調へ転調する場合は3種類の短音階から選べる。
  • 移調は全体的な音程を保ったまま音を上下させる。